フランス語は理解するが日本語だけを話す状態になったと聞いて、井上さんは「その状態は、バイリンガルになっていないですよね?」と心配そうだ。その言語を聞いて理解できていても話せないのでは、バイリンガルとは呼べない。しかし、再び状況が変わるタイミングがやってきたと西さんは言う。
「フランスから妻の妹が我が家に来て、息子の話す言葉がまた変わりました。彼女にはフランス語しか通じません。息子は最初、彼女に日本語で『これ見て!』など呼びかけていました。でも、理解してもらえない。フランス語で話しかける妻とは日本語でも理解してもらえるので、同じつもりだったのでしょう。でも伝わらないから、息子も考えて、フランス語を話すようになりました。最初はぎこちなかったのですが、2週間も経つと、すっかり以前のバイリンガルな状態に戻りました」
生まれてから家族だけで過ごす期間に複数言語を使い分ける環境に置かれることと、いったん保育園などの社会に出て周囲の環境に馴染んだタイミングでふたたび使い分けを学ぶこと、この二度の機会が、バイリンガルに育てるには必要なようだ。
国際結婚カップルの間に生まれたハーフの子どもなら、バイリンガルになるだろうと安直に考える人は少なくない。しかし実際には、両親の努力によって培われた末、バイリンガルに成長できる。空から落ちてくるように手にしていると思われるものも、実は教育の成果なのだ。