国際情報

人類初の「頭部切断・他人の身体に移植」手術は成功するか

神経外科医のセルジオ・カナベーロ博士 Reuters/AFLO

「人類初の頭部移植手術が2017年末に行われる」──2015年5月、センセーショナルな記事が報じられた。

 本誌2015年9月号で紹介した人類初の頭部移植手術「HEAVEN」プロジェクト。研究をリードするイタリア人神経外科医、セルジオ・カナベーロ博士の手によって、いよいよ実行段階に近づいているのだ。

◆移植手術希望者は50人

 対象となる患者は、遺伝性の難病・脊髄性筋萎縮症を患うロシア人男性、ワレリー・スピリドノフ氏(32)。筋萎縮が進行して自らの骨格を筋力で支えられなくなり、放っておけば長くは生きられない。しかし、その体から頭部を切り離し、脳死状態のドナーの健康な体に接合すれば、助かる可能性がある。

 医学界には技術的な面から「あと100年かかる」と疑問視する声が根強くあり、倫理的な問題も指摘されている。しかしこのプロジェクトに出資するスポンサーは少なからずあり、手術を希望する申請者も富裕層を中心に約50人。カナベーロ博士に大きな期待が寄せられている。

 成功のためにクリアすべき課題も多い。たとえ医学的に移植が成功しても、人間が心理的にこれに耐えられるかどうかが問題だ。1988年にフランスで行われた手の移植手術でさえ、患者は違和感を拭うことができず、後に切除を希望した。他人の胴体を丸ごと移植するとなれば、馴染むのは容易ではないだろう。

 そのためこのプロジェクトは、手術の半年前から患者の心理カウンセリングを行う。そこでは米シカゴ・インヴェンタム生物工学テクノロジー社の最新のVR(バーチャルリアリティ)技術を使用する。新しい体を実感させる仮想実験によって、移植された胴体にうまく馴染んで動けるようトレーニングを行うのだ。

 手術では、まず患者とドナーの体を摂氏10度の低体温の仮死状態に。脊髄へのダメージをできるかぎり軽減するために、頭部の切除には“極めて鋭利なメス”を使用。このメスを開発したのはイリノイ大学のファリッド・エミラウチ教授。カナベーロ博士は昨年11月にグラスゴーで行われた講演会で、その「おそらく世界でもっとも鋭く薄い刃」の開発は「初の頭部移植を可能にする画期的な出来事だ」と語った。

 だが、たとえ脊髄へのダメージを避けることができたとしても、それ以上に難しいのが、脊髄と脳の中枢神経から伸びる神経繊維との結合だ。これがうまくいかなければ、手足を動かすことはできない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン