ちなみにこの高い技術は、ギター以外の分野においても評価されている。現在では高級オーディオ機器の木目調部分や、大手自動車メーカーのウッドパネルも製作。ギターの塗装部分が鏡のように映る「鏡面塗装」という技術が、高級自動車などのパネル部分に応用されている。ただもちろん、フジゲンが主軸とするのはあくまでギター製作だ。
「車やオーディオ機器はあくまで部品であり、フジゲンというブランドで出すのはギター。そのスタンスは今も昔も変わっていません」(今福氏)
そのフジゲンから2002年に独立した杉本眞氏は、松本に自分がデザイン・製作を担当する『Sugiギター』を販売する会社を立ち上げた。
「独立のきっかけは、将来ビンテージと呼ばれるギターを作りたいという思いからでした。ビンテージと呼ばれるには、オリジナルのシェイプ(形)じゃないといけない。だから弊社では原則、シェイプは既製品もオーダーメイドも変わりません。変えると音が変わってしまいますから」(杉本氏)
同社は特定のアーティストと契約せず、自分たちのギター作りを行なっている。そのこだわりから生まれるギターはプロにも評判で、例えば矢沢永吉は写真集『FACE』の中でSugiギターを手に持った写真をいくつも使っている。
「自分たちの納得いくものを作って、それをプロのアーティストにも演奏していただく。そのスタンスを貫いています」(杉本氏)
松本のギターには職人の矜持と、音楽への思いが詰まっていた。
■取材・文/白石義行 ■撮影/渡辺利博
※週刊ポスト2017年2月3日号