◆家具作りからギター作りへ
日本で最初にギター熱が高まったのはベンチャーズやビートルズが来日した1960年代のことだ。1980年代にはバンドブームを迎え人気が爆発。その後、低迷期を迎えるが、最近はアニメなどがきっかけで、若い世代を中心に再びギター熱が高まり始めている。
長野・松本は今も昔も、そうしたブームを支えてきた。周囲を山々に囲まれた長野県は、湿度が低く良質な木材が生産されることから、家具職人が古くから多数存在した。そうして培った木材加工技術を応用して楽器作りがスタート。特にエレキギターブームが到来した1960年代には、ギター作りを始める会社が勃興する。
県内でも著しい発展を遂げたのが、元々音楽が盛んな土地柄だった松本市だ。松本は1946年、ヴァイオリニストの鈴木鎮一氏が、音楽を通じた心の教育を行なう「スズキ・メソード」を創設した地でもあり、1992年から毎年夏に行なわれてきた音楽祭「サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現在はセイジ・オザワ松本フェスティバル)」でも知られている。
そんな松本にあるトップメーカーのひとつがフジゲンだ。1960年5月に創立した同社は、1983年にはエレキギターの月産1万4000本と、当時では世界一の生産量を記録。その加工技術からOEM(他社ブランドで売られる製品を受託し生産する)でも世界的に名を馳せ、フェンダージャパンなどの海外有名メーカーが発売するギターを手がけていたこともある。フジゲン国内営業部の今福三郎氏が語る。
「当社の強みは開発力です。例えば厚さ17ミリというネックのグリップがあるのですが、これは量産型の中では世界一薄い。メタル系の速弾きをする人が弾きやすいモデルです。しかし、単に薄ければいいという話ではありません。薄すぎるとねじれやそりに繋がりますからね。加工だけでなく、木の扱いを知っているかどうかにかかっているのです」