戸惑い、怒れる国民たちは朴槿恵の退陣を求め連日デモを行った。その声に押されるように、2016年12月9日、国会で朴槿恵の弾劾訴追案が可決した。これは2004年の盧武鉉大統領以来、2人目となるものだ。
今回の弾劾訴追案は憲法裁判所で審議され、訴追案可決から180日(6月6日)以内に判断が下されるものの、朴槿恵側が「弾劾される理由はない」と徹底抗戦の構えで、今も大統領官邸「青瓦台」で暮らしている。
「私たちは真実が知りたいだけなんです。この国はいつからこうなっていたのか? ただでさえ北朝鮮の脅威にさらされているなか、国の代表はいったい何をしていたんでしょうか? それを知る権利が、私たち国民にはあるはずなんです」(40代主婦)
そんな国民の期待を背に、2016年12月21日、特検は立ち上がったのだった。
「国民経済等に及ぼす状況も重要だが、正義を立てることがますます重要と判断しました」
パク・ヨンスの右腕ともいえる、特別検察補佐であるイ・ギュチョル氏(53才)は、眼鏡の奥に熱い闘志をたたえたまなざしで韓国国民の胸に訴えかけている。彼は今や「コート王」と呼ばれ、その一挙手一投足が注目を集めているヒーローだ。
慰安婦問題で再び緊張状態の日韓関係。しかし、韓国の地で国民が一刻も早く事態を究明してほしいと願っているのは、朴槿恵問題にほかならない。そのスタンスに違いはあれど、学生から老人まで、すべての国民が政治と向き合っている。
2人集まり口を開けばこの問題。それゆえなのか、この問題を報じるジャーナリストや記者の間には『暗殺説』なるものもまことしやかにささやかれている。
捜査の手は、大財閥・サムスンや現職閣僚にも伸びている。そのたびに喝采をあびる特検の中で、今主婦たちのハートを熱くさせているのが、イ・ギュチョル氏だ。
「コート王、今日はキャメルだったわね」
「私はサムスンの人を捕まえた時の黒いコートとマフラーの組み合わせがシックでとっても素敵だと思ったわ! 『経済よりも正義!』と言い切ったのもかっこよかったし」
彼の役割は、捜査の内容を国民に伝えるスポークスマンだ。