人間心理の中には、「繰り返し言われると『本当にそうかも』と思いはじめる」催眠作用があるだけに、「月9が好きだった人まで、何となく嫌いになっている」という側面はあるでしょう。一方、月9を楽しんでいるミドルティーンから20代にはそんな心理作用はなく、むしろ自分たちに向けてドラマを作っていることを歓迎しています。
よく「月9がブームだったころとはライフスタイルが変わった」という声を聞きますが、在宅率やテレビ視聴のデータを見ると、相変わらず月曜の夜は「自宅でテレビを見る」という人も多く、他の曜日や時間帯と比べても有利な状況と言えます。
それだけに求められているのは、ミドルティーンから20代をメインターゲットにしながらも、年上の世代にもそれなりに見てもらえるドラマ作り。これまでのように恋愛をテーマにしていくのなら、若年層向けの分かりやすい展開だけでなく、その背景にある感情や社会背景までも描けるかどうかが鍵を握っています。
最大の焦点は、フジテレビがこのままガマンして月9を続けられるかどうか。低視聴率とネガティブキャンペーンに負けて、月9を消滅させる可能性はないとも言えません。
他局に目を向けると、TBSは2015年秋に好調だった木曜8時の『モニタリング』を2時間に延長させて、9時からのドラマ枠を消滅させました。フジテレビも月曜8時の『スカッとジャパン』が好評だけに、同じ策を取るかも……。
また、日本テレビは今年4月から、9時の『土曜ドラマ』を10時の『嵐にしやがれ』と入れ替えて、後倒しすることを発表しました。フジテレビも、月9と10時の『ズレ!オチ』を入れ替えるかも……。
しかし、1月7日放送の『新・週刊フジテレビ批評』でフジテレビの石原隆編成局長が、「月9はリアルタイム視聴が芳しくなくても、録画・配信を総合すると視聴者にリーチしている」「『逃げ恥』の成功でドラマはいけると思った。見習うべき」。さらに『めちゃ×2イケてる』や『とんねるずのみなさんのおかげでした』を引き合いに出して、「長く続いているブランドを守りながら中身を変えていく」という方針を語っていました。
現場リーダーの力強い言葉を聞く限り、「月9はまだ大丈夫」ではないでしょうか。「苦しい状況だからこそ試行錯誤できる」「若年層にリーチしているドラマ枠は月9だけ」という強みを生かせば、1~2年の間に『逃げ恥』同様のヒット作を生むことも可能とみています。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。