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黒毛和牛関係者の苦境 肥育農家も飲食店も薄利に悲鳴

●違和感3 「肉好き」なのに過剰消費する

「黒毛和牛関係者はみな苦境にあえいでいる」。畜産関係者や肉好きなら誰もが知る事実と言っていい。芝浦などの市場での和牛枝肉の取引価格は確かに右肩上がりのように見える。だが、現代の肉用牛の肥育農家のスタイルは、素牛(もとうし)という子牛を購入し、育てて出荷する。2010年の口蹄疫や2011年の東日本大震災による離農の影響もあり、和牛の生産頭数は減り続けている。

 この数年で元牛の価格は約2倍になった。枝肉の価格が右肩上がりになっているのは業界の景気がいいからではなく、頭数が減っているからなのだ。肥育農家も飲食店も薄利に悲鳴を上げているのが、牛のまわりの現実だ。

「肉好き」という旗を立て、人にモノを伝えるならこうした事情を「知らなかった」では済まされない。肉を愛するならお祭り騒ぎに参加し、ただただ肉の消費を煽るばかりでいいのか、もう一度振り返る必要があるはずだ。

 ウナギもそうだったし、マグロだってそうだ。隣の誰かの皿を羨ましげに眺め、我も我もと貪り食う。シーンが一色に塗りつぶされるほど盛り上がれば、食の多様性は失われ、その食に未来はなくなってしまう。四季があり、四方を海に囲まれた日本には、もっと極彩色に彩られた食卓があっていい。

 平成29年2月9日。僕はCASという冷凍システムで凍らせた3年前のサンマとイカの刺身を食べていた。聞けば、細胞の劣化を防ぐ特殊な冷凍法だという。なるほど。3年前に獲れた魚とは思えないような味の深みを備えていた。

 おいしい肉をもりもり食べる高揚感は、たしかに何ものにも代えがたい。でも物語のある刺身を一切れずつ味わうのも、また違ったおいしさがある。その多様性こそが、この国にある食の醍醐味でもある。

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