ライフ

黒毛和牛関係者の苦境 肥育農家も飲食店も薄利に悲鳴

「肉の日」ではしゃいでていいの?(写真:アフロ)

 平成29年2月9日は「肉(にく=29)の日」としてSNSで盛り上がった。だがそれでいいのだろうか。多くの肉料理記事を手がけてきた食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が、あえてもの申す。

 * * *
 先日、2月9日は「平成29年2月9日」の語呂合わせで「肉の日」だったらしい。肉関連の飲食店から精肉店のほか、FacebookやTwitter、LINEなどなど各SNSで「肉」が盛り上がっていた。個人的にはここ最近、食べ物や肉にも軸足を置いた仕事をすることも増えたので、肉の界隈が盛り上がるのはとても好ましい……はずだ。

 だが、今回はどこか違和感を覚えてしまった。なぜだろう……。「平成29年≒肉」を特に意識していなかったので、肉投稿増加に驚いたという面もあるだろうが、あれこれ考えていているうちにいくつかの仮説に行き着いた。

●違和感1 事業者のような文脈で語るユーザー

 飲食店や精肉店が「平成29年2月9日は肉の日!」と喧伝するのはいい。モノやサービスを売るため、そのフックとなるキーワードを広く伝えるのも仕事のうちだ。だが、対価を払ってサービスを享受する側が「今日は肉の日!」というのはどういう心理だろう。「肉の日で安くなっているから」とか「肉の日で、ふだんは食べられないメニューが提供されるから」というのなら理解できる。だが、ダジャレのようなおしきせの語呂合わせで「今日は肉!」と主張してしまう。

 SNSはユーザー同士の相互承認欲求を可視化する。そしてその承認欲求は呼びかけられた当事者はもちろん、その投稿を見ている可能性のある傍観者にも向けられる。「肉」の画像は「いいね!」がつきやすい。つまり肉画像の投稿は、投稿者にとっても傍観者にとっても、無意識のうちに”成功体験”として蓄積される。小さな承認欲求を満たすために、過去の成功体験を掘り返すのは人間の常……ではあるのだが、やっぱり違和感は拭えない。

 江戸時代に平賀源内が「土用の丑の日はうなぎ」というキャッチコピーをつけたことで、うなぎは人気を博した……という俗説がある。当時定着していなかった食文化を定着させたという意味では意義深かったのかもしれないが、いまやウナギどころか肉食もすっかり定着済み。いちいちSNSで「肉が! 肉が!」と喧伝しなくても、みなさんしっかり召し上がっているのでは……。なんて偉そうなことは、自分を棚に上げてもなかなか申し上げることができません。

●違和感2 ノリが良すぎることへの違和感

 前項にも通じるが、日本人は「仕掛け」に対して実に素直に反応する面はある。江戸時代までは「肉食禁止!」というお上の令を大多数の日本人は忠実に守っていたのに、明治維新でお上が「肉を食べてよし」「むしろ食え」と号令をかけたとたん、あっという間に牛肉食が広まった。「1月は正月で酒が飲めるぞー♪」で知られる、名曲『日本全国酒飲み音頭』の歌詞を引き合いに出すまでもなく、日本人はお祭り好き。クリスマスやバレンタイン、最近ではハロウィーンといった舶来物の時節の祭りを、独自の解釈を加えて見事に自分たちのものにしてしまう。

 だが一方で、「旬」を愉しむような伝統行事にまつわる食の存在感はどんどん薄くなっている。いまでは年末年始の年越しそばにおせち、そして花見弁当くらいだろうか。盆や春夏の彼岸を大切にする家もあるだろうが、一昔前に比べれば圧倒的に減っている。企業の大量消費文脈に乗せられるのは、現代ネット民の嫌うところのひとつだと思うのだが……。

関連キーワード

関連記事

トピックス

永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン