そこで大きな力を持つのは、神話に従えば初代神武天皇を五代遡る太陽神、天照大神を祭る伊勢神宮や、明治天皇を神として祭る明治神宮。天皇が現人神のイメージに戻っていってくれたら、彼らは嬉しい。
さらに日本会議を支持勢力とする安倍晋三政権としても、国民の不満に耳を傾けるような人間寄りの象徴天皇よりも、神として国民に畏怖の念を与えつつ自らの意思を示さず「内閣の助言と承認」の通りに振る舞ってくれる現人神寄りの象徴天皇の方が、都合のよいだろうことは想像に難くない。
国際環境もいちだんと厳しくなる。国民の生活水準も下り坂になるかもしれない。国家が国民に種々の出血を求めなくてはならなくなり、戦後民主主義の求めてきた方向からそれてゆくかもしれない。それでも国民の結束を保とうとすれば、現人神天皇の威力にすがりたくなるのが日本の権力というものだろう。
人間天皇が軋みを乗り越え象徴天皇とハーモニーを奏で続け、戦後民主主義の継続をはかるのか。それとも現人神天皇が象徴天皇を飲み込んで「神国日本」に再帰するのか。天皇観をめぐる戦後日本の「最終戦争」の幕は既に切って落とされている。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究者。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬?太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。
※SAPIO2017年3月号