◆鼻持ちならない
文氏は二つの顔を持っています。一つは庶民に開かれた親しみ深い顔。もう一つは敵対者に時折見せる老練で、冷徹な顔。ソウルの日本人特派員からは、「鼻持ちならない」との声を多く聞きます。いわく(記者会見で)盧氏への都合の悪い質問を、文氏が遮った、と。
私は2012年4月の総選挙、文氏を釜山で密着ルポしました。有権者の求めに応じて気安くサインをする傍ら、メディアへの警戒心は最後まで解かなかった。
この選挙で文氏は、保守派に有利な地盤ながら見事当選。その後も経験を積み自信を深めた文氏は、同年12月の大統領選挙に出馬。しかし大接戦の末、朴槿恵氏に敗れてしまう。
敗因は、投票日直前に保守派(朴派)が繰り広げたネガティブキャンペーンと、ぎりぎりまで追い詰められた保守派の危機感にあると私は思っています。「文氏が大統領になったら赤化統一されてしまう」「この危機を乗り越えるのは朴槿恵しかいない」。対立陣営の叫びが最終盤で高齢の有権者に浸透していきました。
文氏に貼られた「親北」レッテルに信憑性はあるのか。2007年11月の国連で北朝鮮人権決議案が採択された際、韓国は棄権票を投じています。当時の外相が昨年、内幕を明かした回顧録を出版しています。そこに文氏が南北ルートを通じて北朝鮮に意見を求めた結果、棄権を選択したと綴られていたことが話題を呼びました。