その一か月前に盧氏と金正日氏の南北首脳会談が実施されていたとはいえ、国際世論より北の意向を重視したことは「北の内通者」と非難されてしかるべきでしょう。もし彼が大統領になれば盧政権同様、北朝鮮には「太陽政策」をとることが予想されます。では日本に対してはどう出るか。彼は、世論の「風」を読む策略家です。私は身をもって体験しています。
私がコラム問題の初公判を控えていた2014年11月25日、文氏が「(外国人記者を法廷に立たせることは)非常に大きな過ちだ。世界の規準に合わず、国際的に少し恥ずかしい」と発言したことがありました。
人権派弁護士出身の彼らしい発言です。でも、このタイミングで述べたのは理由があったんです。同問題は、「公安統治」「説明責任放棄」「言論弾圧」といった朴政権批判すべてに当てはまる要素を備えていた。
野党側はこれを政争の道具にしようと幾度か試みましたが失敗。当初、世論は政権側に味方していたからです。しかし、初公判前、NYタイムズをはじめとする世界の主要メディアが同問題をとりあげると世論に動揺が見えた。朴氏はやりすぎではないか、と。文氏はここぞとばかりに談話を出し、支持を伸ばします。
ただ、その後、再び世論が“反日挙国一致”に傾くと、一転、ダンマリを決め込む。加勢してくれると期待を抱いていた私としてはオイオイ、と(苦笑)。
人権派弁護士のバックボーンを持ちつつも、法の精神より世論を優先する。それが文氏です。既に、日韓慰安婦合意の再協議を言明している以上、日本に対しても厳しい要求をしてくるでしょう。したたかで、やっかいな相手だと思います。
●かとう・たつや/1966年、東京生まれ。1991年、産経新聞社入社。社会部(警視庁担当)などを経て、2004年、韓国・延世大学校で語学研修。2010年ソウル特派員、2011年ソウル支局長。2014年10月から社会部編集委員。
※SAPIO2017年4月号