森の生家には「森喜朗記念館」が併設されていた。しかし館内関係者によると開店休業状態とのこと。森事務所の係員が不在につき中は見られないという。失言と不人気でわずか1年で退陣した森内閣。安倍晋三の後援会「安晋会」に森は頻繁に顔を出し、同会の会員には元谷夫妻がいるのは公然の秘密だ。ちなみに森喜朗の長男・森祐喜氏はこの能美市の選挙区から県会議員に当選するが、2010年に小松市内で飲酒運転事故を起こし議員辞職、翌年急逝された。
アパ(元谷)─田母神─森喜朗。すべて石川県中部の、わずか30kmに満たない金沢─能美─小松という狭い範囲で繋がっている。この地は、アパ創業の地であると同時に、「保守の苗床」になっていることを強く感じた。
2015年3月の北陸新幹線金沢延伸で、俄かに「熱狂」ともいうべき状況が現出しつつある金沢。日本政策投資銀行のレポートによると北陸新幹線の利用客は926万人。それ以前の3倍という。
事実、不動産価格は上昇し、石川県だけでもその経済効果は678億円(同)。金沢には国内外から観光客が押し寄せ、兼六園を筆頭に、県有施設への来訪者は過去最高を更新中である。
金沢は先の大戦中、米軍による空襲が皆無だった典型的な非戦災地域だ。隣県の富山・福井・岐阜の各都市が空襲で灰燼に帰したことを考えると、この街には戦前からの遺産が戦後も脈々と息づいている。その象徴がアパ─田母神─森、つまり金沢─小松─能美のラインである。
私は戦前からの系譜を「悪」と決めつけているのではない。良くも悪くも、「地縁」で繋がった人々が中央の政治にも影響を及ぼしている。その苗床を観てみたかったのだ。そして「地縁」をかなぐり捨てて上京してきた私のような人間からすると、彼らの濃密な互助関係は羨ましくさえある。トンネルを抜けると、そこは保守の苗床であった。
●ふるやつねひら/1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『左翼も右翼もウソばかり』『草食系のための対米自立論』。最新刊は『「意識高い系」の研究』。
※SAPIO2017年4月号