ライフ

「境界協会」会長 私たちが「境界」に惹かれる理由

『境界協会』の小林政能会長

 約50人の大人たちが、地図を片手に街を練り歩いている。その中心には、ド派手な黄色いヘルメットとビブスを身につけた男性。男性が地面を指さしながら何かを解説するたびに、周りから「へぇ~」「おぉ!」と感嘆の声があがる──。

 彼らが熱心に追いかけているのは都道府県や市区、町などの “境界線”である。ガイド役を務めるのはツアーを主催する『境界協会』の小林政能(せいのう)・会長だ。小林氏が協会立ち上げに至る経緯を語る。

「私は勤務先の日本地図センターで、地図の見方や地形の歴史を紹介する月刊誌『地図中心』の編集担当をしています。その2014年3月号で“境界”を特集したところ、予想以上の反響があった。以前から、区の境界線が一つの施設を真っ二つに“分断”しているのを見つけたりしては、不思議に思っていたので、これを機に境界についてもっと調べてみようと考えたんです」(以下、「」内は小林会長)

“協会”といっても任意団体で、活動は街を歩くフィールドワークが中心。2か月に1回ほどのペースで開催する無料の境界協会ツアーは、フェイスブックで告知を行なう。事前登録は不要で、「事実上、正会員といえるのは私だけ」と小林会長は笑う。ただ、ツアーには毎回30~80人ほどが集まる。それだけ境界に魅力を感じるマニアがいるということだ。

「境界線というのは人間が便宜的に引いた線ですから“なぜここに境界があるのか”を調べて、思いがけない理由が見つかることもある。それが楽しいのだと思います。たとえば、川や水路が境界になっていることはよくありますが、それが暗渠(あんきょ)になると、途端になぜそこに境界があるのかわからなくなります。だから、古地図を引っ張り出したり、現地を歩いたりしながら、理由を探っていきます。

 地形が理由で成り立つ境界線もあれば、自治体や住人の都合といった人為的な理由で引かれた線もある。私は、“人のストーリーと自然のミステリー”と呼んでいますが、境界探索は発見の連続ですよ」

 江戸時代の地図を手に街を歩くと、現在の自治体の境界が、今となっては跡形もない大名屋敷の外縁と重なっていることに気付かされたりする。

「そんな時は、境界線の上に立って周りを見渡し、悠久の時を感じる。至福の瞬間ですね」

 そう微笑む小林会長。境界探索への思いは強くなるばかりだ。

「なぜそこに境界があるのか、さっぱりわからないことのほうが多いんです。だからこそ、推理したり、調べたりする楽しみがなくならない」

※週刊ポスト2017年3月17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
《「めい〜!」と親しげに呼びかけて》坂口健太郎に一般女性との同棲報道も、同時期に永野芽郁との“極秘”イベント参加「親密な関係性があった」
NEWSポストセブン
すべり台で水着…ニコニコの板野友(Youtubeより)
【すべり台で水着…ニコニコの板野友美】話題の自宅巨大プールのお値段 取り扱い業者は「あくまでお子さま用なので…」 子どもと過ごす“ともちん”の幸せライフ
NEWSポストセブン
『週刊文春』からヘアメイク女性と同棲していることが報じられた坂口健太郎
《“業界きってのモテ男”坂口健太郎》長年付き合ってきた3歳年上のヘアメイク女性Aは「大阪出身でノリがいい」SNS削除の背景
NEWSポストセブン
2泊3日の日程で新潟県を訪問された愛子さま(2025年9月8日、撮影/JMPA)
《雅子さまが23年前に使用されたバッグも》愛子さま、新潟県のご公務で披露した“母親譲り”コーデ 小物使い、オールホワイトコーデなども
NEWSポストセブン
卒業アルバムにうつった青木政憲被告
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「ごっつえーナイフ買うたった 今年はこれでいっぱい人殺すねん」 被告が事件直前に弟に送っていた“恐怖のLINE”
NEWSポストセブン
独走でチームを優勝へと導いた阪神・藤川球児監督(時事通信フォト)
《いきなり名将》阪神・藤川球児監督の原点をたどる ベンチで平然としているのは「喜怒哀楽を出すな」という高知商時代の教えの影響か
週刊ポスト
容疑者のアカウントでは垢抜けていく過程をコンテンツにしていた(TikTokより)
「生徒の間でも“大事件”と騒ぎに…」「メガネで地味な先生」教え子が語った大平なる美容疑者の素顔 《30歳女教師が“パパ活”で700万円詐取》
NEWSポストセブン
西岡徳馬(左)と共演した舞台『愚かな女』(西武劇場)
《没後40年》夏目雅子さんの最後の舞台で共演した西岡徳馬が語るその魅力と思い出「圧倒されたプロ意識と芝居への情熱」「生きていたら、日本を代表する大女優になっていた」
週刊ポスト
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
NEWSポストセブン
LUNA SEA・真矢
と元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《80歳になる金婚式までがんばってほしい》脳腫瘍公表のLUNA SEA・真矢へ愛妻・元モー娘。石黒彩の願い「妻へのプレゼントにウェディングドレスで銀婚式」
NEWSポストセブン
万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン