「労働運動側や革新勢力を内包した国鉄が解体に追い込まれた是非については、歴史の評価を待つしかない。ただその渦中にあって国鉄を変えようとした三人組や、分割に断固反対した〈国体護持派〉も、国鉄を愛すればこそ死に物狂いで戦ったわけで、私にはあの無茶な時代が妙に懐かしくてね。
そういうギラギラとした人間臭さが失われた結果が、今の1億総体制化でありトランプ現象でしょ。良くも悪くも中曽根氏みたいな怖い政治家はいなくなり、戦後70年と言っても昭和と平成は別の時代なんですよ。
半藤一利さんによれば、明治維新から日露戦争までと、その後太平洋戦争の終結まで、そして昭和の終焉までと、歴史の転換点は40年周期で訪れる。だとすれば今後10年間で何が起きてもおかしくない。借金や労使問題で自ら崩れた国鉄を書くことで、あの時、自分も含めて何を失ったかを総括したかったのかもしれません。今後の世代のためにも」
国鉄の終焉は昭和や戦後55年体制の終焉と同時に、あの熱さの終焉をも意味したのだろうか。500頁超に及ぶ渾身の大作は、平成29年を生きる私たちにとって手にも心にも重いのだ。
【プロフィール】まき・ひさし/1941年大分県生まれ。早稲田大学第一政治経済学部政治学科卒業後、日本経済新聞社入社。社会部記者、ベトナム特派員、社会部長、労務担当常務等を経て代表取締役副社長。テレビ大阪会長、日経顧問を経て現在は同社客員。著書に『サイゴンの火焔樹──もうひとつのベトナム戦争』『特務機関長 許斐氏利──風淅瀝として流水寒し』『「安南王国」の夢──ベトナム独立を支援した日本人』『満蒙開拓、夢はるかなり』等。163cm、61kg、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年4月21日号