◆冷戦時代の歪みを背負った労使関係
本書では、これが最後のインタビューとなった富塚や、98歳を迎えた中曽根元首相に取材を敢行。また組合の内部資料や元首相の個人的日記(!)の全面提供を受け、福知山線の脱線事故後は口を閉ざした三人組の井手正敬氏に関しても、非公開の手記等を元に当時の状況を具に再現するなど、新事実に事欠かない。
ちなみに三人組の呼称は中国文革の四人組に由来し、国鉄キャリアとして分割民営化を内側から支え、運輸族の大物・三塚博議員の下、〈秘密事務局員〉としても暗躍した井手、松田昌士、葛西敬之の3氏を指す。
「戦後、民主化の名の下に組合活動を奨励しながらも、一方で日本を反共の砦とするべく活動を制限したのもGHQだった。つまり冷戦時代の歪みを一身に背負ったのが国鉄の労使関係と言える。そうなると組合側であれ当局側であれ、1つの立場では全貌は語り得ませんし、政治も含めた全ての動きを中立的に検証してこそ、歴史だろうと思う」
一方で〈「歴史(ヒストリー)」は、まさに「物語(ストーリー)」であった〉と書く氏自身、膨大な資料や事実関係を総検証した上で、変節や裏切り、保身や愛憎渦巻く人間ドラマにこそ、魅せられているかに映る。