スポーツ

イチロー シアトルでの凱旋本塁打に「アイルビーバック」

球場は大歓声に包まれた(写真:アフロ)

 現地でも感動的な光景だと伝えられた。だが、本人は案外そうでもないのかもしれない。MLBアナリストの古内義明氏がレポートする。

 * * *
 9回裏。先頭打者のイチローが内角高めのフォーシームを捉えた。打球はライトスタンドで待つ熱狂的なマリナーズ・ファンのグラブに収まった。「(ファンが)全部期待以上のもので表現してくれるから、本当に打てて良かった」。イチローにとってメジャー通算115本塁打。セーフコ・フィールドでは通算54本塁打となった(球団史上5位タイ)。さらに、この今季第1号によって、メジャーに渡ってから17年連続本塁打、日米通算では25年連続というメモリアルアーチとなった。

 12年半プレーしたシアトルに凱旋したイチローだったが、開幕からこの日まで刻んだヒットはわずかに1本。それでも、マリナーズが生んだ稀代のヒットメーカーに対して、ファンはスタンディングオベーションで迎えた。2012年4月18日以来となるセーフコ・フィールドでの一発に、「イチローコール」の波はダイヤモンドを一周して、最高潮に達した。

 過去、ランディ・ジョンソン、ケン・グリフィー・ジュニア、アレックス・ロドリゲスなどなど。マリナーズで育った大物たちは次々とシアトルを去った。金銭的な理由がほとんどだが、マネーゲームになれば、マーケットの小さいマリナーズは分が悪かった。2012年のシーズン途中、イチローのヤンキースへの移籍は高額年俸をめぐる球団の方針転換が主たる理由だった。

 イチローが在籍した間、プレイオフに出場したのは1年目だけ。球団の方針に一貫性があったとは決して言えず、投打がかみ合わないマリナーズにファンが望むような結果はついてこなかった。マリナーズでの晩年は特に、イチローに対する風当たりは強かった。移籍直前の会見で、孤高の天才が流した涙には、無念の思いが少なからずあったはずだ。

 この日、マリナーズは入場者に、イチローのバブルヘッド人形を配布した。マリナーズとマーリンズという2球団のユニホームを着たコラボ人形は異例中の異例のプロモーションだった。それを求めて、ウィークデイに2万7147人のファンが詰めかけ、いまだ衰えないイチロー人気を見せつけた。

 MLBの公式サイトは、この夜の出来事を「最後のセーフコ・フィールドで、イチローが感動的な本塁打」という見出しで伝えた。また、ホームランボールを捕ったケビン・シャノンさんは、「イチローは偉大な選手に1人。私の中にある野球魂の一部は、イチローのものでもある」と感慨深く話し、イチローにそのボールを返し、御礼にサイン入りバットをプレゼントされたという。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン