旧金毘羅大芝居は役者たちだけではなく、地元の人々にも特別な場所となっている。開演前に賑やかな口上をする木戸芸者に扮するのは、琴平町商工会の面々。彼らは芝居小屋の奈落で舞台装置を人力で動かす役割も担いお茶子(案内係)など、町全体で芝居を盛り上げている。
そんな地元密着の舞台には、「東京へ行くのはしんどいけれど、『四国でやっているなら行こうか』と、気軽にでかけることができる」と、県内や近県の人々が続々と足を運ぶ。今や全国からファンが訪れるが、人気で地元の人の席がないと知らされた故・中村勘三郎が急遽、座布団席を設ける粋な計らいをしたこともあったとか。
江戸時代、こんぴら詣での楽しみとして庶民が愛した“こんぴら歌舞伎”は、今もなお四国の地に息づいている。
取材・文■渡部美也、撮影■太田真三
※週刊ポスト2017年5月5・12日号