日本コロムビアは、美空ひばり、島倉千代子など昭和を代表する歌手を輩出したレコード会社である。

 小林の著書の『亜星流!ちんどん商売ハンセイ記』の中に、CMディレクターの杉山登志が自殺した日のことが書かれている。杉山は資生堂のコマーシャルなどで数々の賞を受け、CM業界の寵児と持て囃された。その男がクリスマスまであと10日あまりと迫った1973年冬、自宅マンションで首を吊って自殺した。37歳だった。遺書にはこう書かれていた。

「リッチでもないのに、リッチな世界などわかりません。ハッピーでもないのに、ハッピーな世界など描けません。〈夢〉がないのに、〈夢〉を売ることなどは……トテモ、嘘をついてもばれるものです」

 杉山が自殺したのは、小林のオフィスの真下の部屋だった。小林は著書で書いている。

〈ある朝、僕がいつものように赤坂にある自分の事務所に行くと、管理人さんがとんで来て「大変です、亜星さん、自殺者が出たんです」と言ったんです。そのとき僕はなぜか直感的に、トシだ、と思いました。僕の事務所が三〇五号室で、彼はすぐ真下の二〇五号室に住んでいました〉

 世間は杉山の早すぎる死をこぞって悼んだ。だが、小林の見方は少し違い、同書で大意こう述べている。

 彼の生き方はカッコよさばかりに価値観を見出す今の日本の若者に大変似ている。生きるっていうことは、すごくダサいことなのに、ファッショナブルな世界を撮り続けなければならなかった彼はそのギャップに悩まされ、遂に死の誘惑に負けた……。

 杉山は何事にもリッチさとハッピーさを求める時代の要請に負けて自死を遂げた。が、自分の職業を“ちんどん稼業”と見定めた小林は84歳になる今日まで図太く生き抜いた。 満州国が建国された1932年に生まれた小林は、間もなく生前退位される天皇より1歳年上である。

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン