この数字には孤独死も含まれるが、ほとんどは医療技術が進歩した結果ともいえる。さまざまな疾患が見つかりやすくなり、また病状が進んだとしてもそれに対応できる治療が格段に増えた。そのため終末期には、回復の可能性がわずかでもあれば、医師は家族に「こうすればまだ生きられるかもしれない」と提案する。家族はそれに望みをかけることが多く、結果的に病院で亡くなるケースが増えているのだ。
「各病院は葬儀会社と連携していますから、まずは葬儀会社が遺族に『ご自宅にお戻りになりますか?』と聞きます。遺族は本心ではそうしてあげたくとも、なかなかできないのが実情です。ご遺体が同じ建物内にあるということを嫌がる声があがり、マンションの規約でご遺体の運び込みが禁じられているケースもあります。
また手狭であるため物理的に難しいということも大きい。たとえ安置する部屋があったとしても、玄関の間口が狭かったり、階段を上った2階部分にその部屋があったりすると、ご遺体を運び込むことができないのです。というのも、ご遺体は縦にできないからです。死後硬直が始まり、内臓などの臓器が緩み、体内から出てしまうことがあるんです。鼻の中に詰め物をしますが、そういった意味合いがあります」(竹岸さん)
このような話をすると、遺族は、「最期はきれいな状態でいさせてあげたい」と、無理に帰宅させることなく遺体を安置できる場所を探すことになる。
「それが以前であれば、火葬場などにある冷蔵室。スペースを有効活用するために壁に並べられた1つ1つの冷蔵室に、つい先ほどまでは温かかったご遺体が運ばれるんです。私は、ここにどうしても違和感がありました。ご遺族がゆっくりとお別れさえすることができないなんて、って」(竹岸さん)
現代を生きる私たちには、いつも肝心な何かが足りていない。子供が生まれれば保育園・幼稚園が足りない。親の介護をすれば老人ホームが足りない。そしてきちんとさよならをしたい時になったら、今度は火葬場が足りないのだから――。
※女性セブン2017年5月25日号