助産士さんに、「丈夫な子になるから」と言われ、こわごわと抱いて初乳を含ませたときのこと。新生児のどこにこんな力があるのか、乳首に吸いつかれたとたん、私はパニックを起こしました。
声を上げて泣きだして、胸に抱いた娘を放り投げそうになったのです。あわてて助産士さんが娘を別室に連れていき、私はその直後に退院しました。
◆初めて会った娘 その姿に目が釘づけに
それきり娘とは会っていません。いえ、正直に言うと、1度だけ13才になった娘の後ろ姿を見かけたことがあります。
娘は子供に恵まれなかった男の姉夫婦に引き取られていたのです。事情を知っている伯母は、「実家から車で20分ほどの町でいい娘になっているわよ」と言い、さらに、「6か月乳児健診で、先天性股関節脱臼とわかったんだって。それで足がちょっと不自由なのが気の毒だけどねえ」と付け加えました。
私はただ産んだだけ。あの子の親の資格はない。会うべきじゃない。そう自分に言い聞かせても足のことが気になって、「ひと目だけでも」という気持ちを打ち消せません。それでとうとう、ハンバーガーショップにひとりで入る娘を見つけたのです。一瞬でわかったのは、「血」としか言いようがありませんが、私は足を引きずるように歩く寂しげな後ろ姿に目が釘づけになりました。
「ごめんね、ごめん」
車にこもってひとしきり謝ったものの、私は娘の名前を知りませんでした。
◆初めて好きになった男は10才年上の妻子持ち
19才で、育てられない子を出産した後、私はどうしたか。世話になった伯母は、母の“夜の性癖”を知ってか知らずか、「あんな妹に育てられたらこうなったのよ。あんたばかり責められないわ」と、慰めてくれました。
心機一転。私は再び上京して、デパートの派遣社員、当時は「マネキン」と言った仕事につきました。そこで知り合ったのが、バッグやベルトなどを納品している10才年上のTです。
彼は結婚して子供もいる妻子持ち。それでも背が高くて女ったらしの彼に、生まれて初めて夢中になりました。
私が借りた木造モルタル6畳一間のアパートに彼が昼休み時間に訪ねてきて、来れば昼の日中からセックス。終わればさっさと帰るというつきあいでしたが、好きな男とするセックスに満足でした。
◆33年前に産んだ娘の父親を私は知っている