「永代供養墓はどちらにありますか?」
小川住職が指差したのは、目の前にある、円墳の中央部。円墳そのものが永代供養墓で、カロートが永代供養墓を囲んでいたのだ。
「個別のお墓の年会費が納入されなくなってから13年後に、永代供養墓に合葬します」と小川住職。
「13年後」に耳を疑ったが、聞き違えではなかった。これまで取材したところは一様に「3年後」だった。
「晩年に結婚され、『夫と一緒に暮らせる月日が短いから、死んでからもしばらくは一緒にいたい』とおっしゃる女性がおられたんです。そのかたの声に応えたいと、13年間に設定しました」
胸がキュンとなることをおっしゃる。「合葬の後も“お墓仲間”に囲まれた状態になるので、寂しくないでしょう?」と情緒的な言葉が続いた。妙だが、私も埋葬される故人の気持ちになってみる。
墓地にやって来て、少なくとも13年間でこの環境に慣れ“ご近所さん”とも袖すり合う。その後に永代供養墓に居を移し、永遠に住まう。ということは、この環境を享受し続け、ご近所さんともずっとご近所さんであり続ける。
いいな、と感じる半面、「遺骨に意思はないよな」と身も蓋もない思いもよぎる。もっとも、故人が身近な人であればあるほど「あの世でも幸せに暮らして」と思うけれども。墓地を一巡した後、小川住職はにこやかな面持ちで、こう言った。
「最大の特徴は、事実婚、姉妹、友人、恋人同士などで一緒に入れ、継承していただけることです。イエに縛られないお墓なんですね」
初めて見る形やスタイルに目を奪われ、つい余計な理屈までこねてしまったが、ここ安穏廟の本質は「イエに縛られない」にあったのか。ゆっくり話を聞かせてもらった。
◆購入理由に「シングル」「離婚」「夫と別を希望」も
――安穏廟を作るきっかけは何だったんでしょうか。
「直接的には、ある初老の姉妹から相談を受けたことです。お姉さんは独身で、妹さんは離婚して子供がいない。2人ともお兄さんが継いでいる実家のお墓には入りづらいとおっしゃり、『私たちは無縁になるしかないのでしょうか』と涙ぐまれました。返答に困ったんです」
――同様の悩みを抱えている人は、多いですよね。
「ええ。私も『あ、自分も同じじゃないか』と思ったんです。うちも娘4人ですから、他人事じゃない。イエに関係なく、血縁を超えて入れるお墓を造ればいいじゃないかとひらめきました」
――斬新なひらめきです。