小泉政権時代の2005年、自民党は立党50年目に初めて『新憲法草案』(2005年草案)を発表した。森喜朗・元首相を起草委員長に首相経験者たちが策定にかかわり、中曽根氏は「前文」をまとめる小委員長、幹事長だった安倍氏はその下で小委員長代理を務めた。このとき、中曽根氏は、〈日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々に、天皇を国民統合の象徴としていただき〉で始まる前文原案を自ら書き下ろした。ところが、発表された前文は全て書き直されていた。
「草案の作成議論は郵政解散を挟んで行なわれた。小泉首相は中曽根氏の長男の弘文氏が郵政民営化法案に反対票を投じたことから、中曽根原案の書き換えを指示し、安倍さんもそれに従った」(自民党ベテラン)
草案づくりは理念より政争が優先されたのである。
そして今年の憲法記念日、安倍首相は突然、「東京五輪が行なわれる2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と期限を切って改憲推進を表明した。
与野党を驚かせたのは改憲の中身だ。読売新聞のインタビューで、9条は1項(戦争放棄)、2項(戦力不所持)を「そのまま残し、自衛隊の存在を記述するということを議論してもらいたい」と9条改憲を大幅に後退させたのである。
安倍首相が改憲発言をコロコロ変えるのは今に始まったことではない。2012年の政権交代選挙では威勢良く「国防軍創設」(9条改正)を掲げたが、選挙に勝利して首相に返り咲くとまず憲法改正手続きを定めた96条改正を優先する“お試し改憲”を言い出し、批判を浴びると一転、大規模災害やテロ発生時に政府の権限を強化する「緊急事態条項」の新設に軸足を置いた。