1980年代後半になると、映画『必殺!III 裏か表か』や映画『劇場版スケバン刑事』など、悪役を演じることが増えていった。
「自分はそういう人間ではないのに怖い人だと思われているみたいです。この間も飲み屋さんで普通にしゃべっていたら、『伊武さん、しゃべったりもするんですね』と言われました。共演者にも『最初は怖くて近づけませんでした』と言われたりね。
なぜそう思われるのか考えているんですが、多分コンプレックスがあるんでしょう。学校を出てないから知性的に見られたいというのが無意識のうちにあって、即答しないでワンクッションおいちゃうんですよ。そういう気取ったところが、怖く思われる原因かな、と。
悪をやるのは楽しいです。『スケバン刑事』は、NHK大河で一年拘束された後で入った仕事だったので、『これで生活できる』という喜びもあって、喜々としてやりました。ヒトラーみたいに生徒たちを演説して洗脳する校長でしたね。『宇宙戦艦ヤマト』のデスラーもそうですが、粒立てた強い声でガーッといくのは、あの当時は気持ち良かった。
『必殺』は工藤栄一監督で、『メイクするなよ』と言われてノーメイクでやったこともあります。そうすると、ノーメイクを嫌がる役者さんたちより出番が増えていきました。
時代劇の所作や殺陣は大部屋俳優さんたちから撮影の合間に教わりました。あと、月形龍之介さんや市川雷蔵さんの映画を観て立ち居振舞いを勉強していました。全て自己流ではありますが、やはり時代劇をやるからには姿勢を貫き通さないと」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2017年6月9日号