「ビールの価格相場が全体的に上がったからといって、すぐに需要が減りお客様のビール離れが進むとは思っていません。ただ、5月下旬の出荷量は対前年120%と、明らかに値上げを見越した『駆け込み需要』も起きたので、この反動がどれだけくるのか。お客様の購買動向がどう変化するのか注視する必要があります」(布施社長)
ましてや、ビール価格変動による先行きの不透明さは、今回だけで終わらない。2019年には消費税増税が予定され、2020年以降は段階的に酒税の一本化が図られる。
最終的にビールは減税になる見込みだが、その他の発泡酒や新ジャンルビール、缶チューハイやワインなど、その他の酒類を差し置いて再びビール人気が高まる保証はない。一番搾りのリニューアルは、価格変動に負けないための商品力磨きでもあるのだ。
「何とかビールマーケットのダウントレンドを食い止めるためには、価格ではなくビールの価値やおいしさ、売り場の鮮度などをお客様に繰り返し伝えて需要を維持・拡大させていくしかありません。
今このタイミングだからこそ、キリンのフラッグシップである一番搾りを、長期的成長に向けた“再成長元年”と位置付けてリニューアルすることにしたのです」(布施社長)
とはいえ、相変わらず家計の節約志向が根強い中、消費者はまず値段に敏感に反応してしまうのも当然だろう。経済誌『月刊BOSS』編集委員の河野圭祐がいう。
「今回のように原材料費の高騰でもなく、税金が上がる局面でもないのに値上げが行われるのは、消費者にとって理解できないでしょう。
小さな酒屋を守る名目で“販売の正常化”といわれても、他の食品や家電などでも廉価販売は普通にやっていますし、小売店の経営努力で販売促進的に行なった安売りまでもが規制されるような事になれば、若者だけでなくビール好きな40、50代の顧客も離れかねません」
果たして、庶民の消費行動をガラリと変えてしまうほどの酒税改正にどれほどのメリットがあるのか。