企業を売却しようとする時には、デューデリで好業績に見せかけて高値で売り抜けるために、数年かけて“ドレスアップ”をするケースも少なくない。その手口は、ドレスアップ専門の経営者を送り込んで、研究開発費や広告宣伝費を削り、給料が高い優秀な社員をクビにしてコストを削減する。投資はせずに安売りなどで売上高を嵩上げし、無理矢理、利益を出す。

 その結果、短期的には業績が良くなったように見えるが、中身はボロボロになる。このドレスアップを、買収する側はデューデリで見破らねばならない。投資銀行が絡んだり、投資ファンドが保有企業を売り出したりした場合は、とくに要注意だ。

 その代表的な例は、住関連サービスのLIXILによるドイツの水栓金具最大手グローエ買収である。グローエは2004年から投資ファンドが保有しており、そのファンドがグローエをドレスアップするために会長兼CEOとして送り込んだのがデイビッド・ヘインズ氏だった。

 彼は中国企業ジョウユウを買収することでグローエの業績を嵩上げし、2014年に約4000億円の高値でLIXILに転売することに成功。結果、LIXILはジョウユウの破産に伴い最大662億円の損失を出すことになった。

 ジョウユウは、積極的な世界化のために金利の高い“影の銀行”などから借金をして利息が雪だるま式に積み上がっていたと言われている。こうした孫会社の実態はおそらくヘインズ氏からは報告されていなかったと思われる。

 当時のLIXILの藤森義明社長兼CEOは、アジア人として初めて米ゼネラル・エレクトリック(GE)の上席副社長を務めた「プロ経営者」と呼ばれる人物だが、その藤森氏でさえ、ファンドが仕掛けたカラクリを見破ることはできなかったのである。

 NTTも分割民営化後は各社が積極的に海外M&Aに取り組んだが、ことごとく失敗して巨額損失を出す羽目になった。M&Aの場合は、案件を持ち込んだ投資銀行との間で「ノン・ディスクロージャー・アグリーメント(NDA=秘密保持契約)」を結ぶため、私のような長期にわたって経営相談を受けているコンサルタントといえども、当該事項が進行している間は情報を知ることができない。

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