「正直なところ、弾き語りの世界ではトップクラスだと思っていましたが、僕の夢はレコードがヒットしてスター歌手になることでした。
戻る場所があると気持ちが弱くなるから、弾き語りの世界に戻ってこないと覚悟を決めて、仕事を全部友達に譲って退路を断ち、これでダメなら実家に帰って農業をやろうと人生最大の賭けに出ました」
背水の陣で見事10週連続勝ち抜き、1971年、「五木ひろし」に改名して再デビュー。『よこはま・たそがれ』がオリコン1位を獲得すると、その年のNHK紅白歌合戦に出場。瞬く間に大スターへと駆け上がった。
「最後の勝負だから、もう必死でした。でもそれが、“五木ひろし誕生”につながるわけだから、やっぱり男は勝負しないとダメなんです」
以後、次々とヒットを飛ばし、2002年にはレコード会社「ファイブズエンタテインメント」を設立、レコードが売れないといわれる音楽業界で創立15周年を迎えた。
「この先どこまでやっていけるか、自分との戦いですよね。目標を高く持って、競争しながら負けず嫌いで前に進んでいけば、また新たな目標が生まれてくるんです」
60代最後の1年も挑戦を続ける。6月21日、五木は歌手として初めて観世能楽堂(東京・銀座「GINZA SIX」)の舞台に立ち、6月24日から始まる「五木ひろし特別公演・坂本冬美特別出演」(大阪・新歌舞伎座、7月23日まで)では、織田作之助原作『夫婦善哉』を演じる。