小笠原医師はハッと思い出した。以前、堀さんに早く寝るよう勧めたら、「夫より先には寝ない」と話していたことを。
そこで、小笠原医師は急いで帰り、夫と子供たちが堀さんと布団を並べて一緒に寝た。2時間後、目を覚ました夫が、妻が穏やかな顔で亡くなっているのに気づいたという。
「在宅看取りの現場ではこういう不思議なことが起きる。遠くの孫の到着を待って旅立つとか、『一人で死にたい』といっていた人が、誰もいないときを見計らったかのように亡くなるとか。意識がなくても、死ぬ間際に人は何かを感じ取っているのかもしれません」
※週刊ポスト2017年7月7日号