日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄さん
小笠原:それと一つ言っておきたいのは、麻央さんのニュースでも耳にしたのですが、「家に帰り、在宅医療を開始したから、もう死を待つだけ」というのは間違いです。在宅医療の中でも、「在宅ホスピス緩和ケア」を提供すると、住み慣れた家で最期まで希望を持って明るく生きることができますからね。
〈訪問看護師の秋山さんは、がん患者が気軽に訪れて相談できるスペース、「マギーズ東京」の共同代表理事も務めている。豊洲市場からほど近いこの場所は、平屋の一軒家でカフェのようにくつろいだ雰囲気。対談が行われた日も、がん患者やその家族が治療について看護師に相談したり、一緒にお茶を飲んだりする光景がそこかしこに見られた。〉
秋山:ここに来られるみなさんも、麻央さんのブログに影響を受けておられました。病状が重くても明るく生きる麻央さんに励まされているかたが多かったですね。その一方で、「家に帰って、たった1か月で亡くなるなんて」などと、死という現実にショックを受けているかたもいました。お元気そうなブログから数日で亡くなったので、急に逝ってしまったように見えたのだと思います。
小笠原:なるほど、そういう反応があったんですか。
秋山:私たち医療関係者から見ると、退院して家に帰ったから急に容体が悪化したわけではなく、それなりの経過をたどってきて、1か月間、おうちでよく頑張られたと思うんです。がんの患者さんはギリギリまで元気でいるかたも多いですよね。
◆1か月間、麻央さんはよく頑張った
小笠原:元気そうに見えたかたが急に亡くなることを、一般のかたは理解しにくいでしょうね。『なんとめでたいご臨終』に「旅立ちの日が近づいたサイン」を載せましたが、終末期のかたを在宅でケアしていると、歩けなくなってから3日から10日で亡くなるケースが多いんです。まさにぴんぴんころりです。
麻央さんの状態では、家に帰ってきて1か月というのは決して短いとは思いません。病院を出たから死期が早まったというのは誤りで、家に帰るとリラックスして笑顔で長生きできるケースも多いんです。ロウソクの火がパッと輝くように生きて、スーッと亡くなる。1か月間、麻央さんはよく頑張って生きてこられたと思いますよ。
秋山:海老蔵さんもインタビューで、在宅は大変だけれども、それ以上にいい面があるなどとおっしゃっていましたね。
小笠原:家なら旅立つ数日前まで好きなことができて、そしてお別れを迎えられる。これが在宅のよさです。麻央さんも、口内炎の痛みに苦しみながらもご家族が搾ってくれたオレンジジュースの味と香りを楽しんでいましたよね。