秋山:一般的に患者さんには、自分の体に少しでもいいことをしたいという心理が最後まで働きます。病院だと薬が増えるだけですが、家だと自分なりにいろいろな工夫ができますよね。このジュースもそうですし、体が痛いから向きを反対にしてクッションを当ててみようとか、足を温めてみようとか、食べやすいものを少しでも食べようとか。生活の中で気がつくことがたくさんあるんです。
小笠原:「お見舞いに行って会う」のと「家で一緒に暮らしている」のでは全然違いますからね。素のまま、普段のまま子供と接することができる。やっぱり、そこが病院と家のいちばん大きな違いですよねぇ。
秋山:みなさん、病院にいれば安心と思っていますけど、そうとばかりは言えませんよね。入院していると医療処置がどんどん増えていって、減ることはありませんよね。
小笠原:酸素吸入の機器などは、外した時に患者さんが亡くなられたら、医師が責任を問われると困る場合もあります。一度始めてしまうと、外すのには、事前の説明と同意、そして勇気がいります。
秋山:よく誤解されるのは、在宅だとできる医療処置が限られて、充分な治療やケアが受けられないのではないか、ということです。そんなことは全くなくて、必要な医療処置はきちんとします。その上で、患者さんの生活の質が上がるような看護ができるのが在宅ケアです。
小笠原:そうなんです。大切なのは「必要な医療やケアだけを提供すること」です。たとえば、酸素吸入をやめると苦しくなると思われがちですが、家に帰り、心のケアをすると、痛みが減って楽になり、動けるようになるんです。不思議なことに病院にいる時よりも痛み止めのモルヒネの量も減るんですね。
なぜかと言うと、病院にいるとストレスを感じるからです。ストレスは痛みを敏感に感じやすいので、痛みを取るために多量のモルヒネが必要です。それに対して家は癒やしの空間なので、家に帰るだけでモルヒネの量も減らせるんですよ。在宅医療なら余分なものをやめることができる、つまり、患者さんが元気になるんです。これも在宅医療のよさですね。
■撮影/太田真三
※女性セブン2017年8月3日号