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相撲女子が綴る「号泣おじさん」元横綱・柏戸の思い出

七代目鏡山親方の元柏戸(写真:共同通信社)

 相撲ブームが沸騰している。「謎のスー女」こと尾崎しのぶ氏が、現在相撲コラムを週刊ポストで執筆中。今回は元横綱の柏戸について尾崎氏が綴る。

 * * *
 二〇一三年一月場所。鏡桜が十両に昇進。鏡山部屋から十九年ぶりの関取誕生。喜ばしいはずなのだが、鏡山親方(元関脇・多賀竜)は頭を抱えていた。なぜなら鏡山部屋は、力士が親方の息子の竜勢とモンゴル出身の鏡桜の二人しかおらず付け人も他の部屋から借りなければならない。

 輪になって低い姿勢でのすり足を体にたたきこむムカデという体操があるが、鏡山部屋には四本の足しかないことから「ムカデをうらやむ犬」とからかわれている。「猫の手」を借りたい「犬」なのだ。

 二人はムカデ体操を求めて伊勢ノ海部屋や時津風部屋などにせっせと出稽古に行っている。他の部屋の力士から「兄弟子のお使いをしなくていいなんて」とうらやましがられている。鏡桜は関取用の個室を使用する権利を得ても「窮屈」と三十畳の大部屋の中央で寝ていたそうだ。「無理ヘンにゲンコツと書いて兄弟子と読む」とは角界の慣用句だが、ハングリー精神とは無縁の鏡山部屋でよく関取が育ったものだと感心した。

 一九八四年九月場所で多賀竜が平幕優勝をしたとき、わずかに瞳をきらめかせているだけの多賀竜本人とは対照的に、横にいる鏡山親方(元横綱・柏戸)が「ビエーン」と聞こえてきそうな表情で泣いていた。

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