若い女性が落語に目を向けたきっかけとして『昭和元禄落語心中』が挙げられることが多い。雲田はるこという女性漫画家が2010年から2016年まで女性コミック誌に連載した人気作品で、アニメ化もされた。確かにこの作品で落語に目覚めた女性もいるだろう。
だがそれは、若者が落語に興味を持つための、多様なきっかけの一つに過ぎない。「漫画の登場人物に萌えた女性たちが若い落語家を追っかけて『イケメン落語家ブーム』が起こっている」という短絡的な解釈は大間違い。「むしろ若い男性客のほうが増えている」と指摘する落語家もいる。
この10年で落語は細分化されたエンタメの一ジャンルとして定着した。決してメジャーではないが、低迷もしていない。そんな落語を新たに「発見」した若者は、それぞれ「SNSで情報を収集してライブに足を運ぶ」というパターンで、落語を気軽に楽しんでいる。そうした若者の行動パターンに狙いを絞って成功したのが「シブラク」だ。
なぜ二ツ目の会に若者が足を運ぶのか。料金的にリーズナブルで敷居が低いし、落語経験値が乏しい若者にとっては同世代の演者こそ親しみやすい、というのもあるだろう。だが最も重要なのは、「面白い二ツ目がいる」という単純な事実だ。
今、二ツ目の会に足を運んでいるのは、若者だけではない。むしろ、長年の落語ファンが「面白い二ツ目」を知って熱心に追い掛けたりしている。ただし、それは「二ツ目ブーム」とは違う。「二ツ目だから客が来る」のではなく、「二ツ目なのに客を呼べる演者がいる」のである。
僕が、面白い落語家を紹介するコラム『噺家のはなし』を『週刊ポスト』に連載していたのは、2011年1月からの約1年間。あれから6年で落語界もだいぶ変わった。その一つが、この「二ツ目が元気」という現象だ。それを象徴するのが落語芸術協会(芸協)の二ツ目ユニット「成金」。「シブラク」人気の原動力の一つは、柳亭小痴楽や瀧川鯉八といった「成金」メンバーの出演だった。