「白鵬が『代わりが来たからお役御免』と言わんばかりにさっさと離脱したため、稀勢の里は土俵入りを続けざるを得なくなった。治療中とあって取組は務めなかったが、笑顔でサインや記念撮影に応じ、これまでやったことがない赤ちゃんを抱いての土俵入りまで見せるファンサービスに徹した。“気難しいガチンコ力士”がすっかり“いいヒト”に変貌していた」(同前)
巡業先の稽古では、貴乃花部屋の若手力士に胸を貸すシーンも見られた。前出・二所ノ関一門の親方はこういう。
「巡業は若手にとって力をつける場ですが、横綱や大関にとっては苦手力士を可愛がってこの人には勝てない、という意識を植え付ける場。ところがケガから回復していない稀勢の里の稽古は“可愛がり”にはほど遠く、ケガの具合や腕の動きなどを観察される格好の場になってしまった。次の本場所では、その弱点を攻められるだろう」
もともと、田子ノ浦部屋は先代親方(元横綱・隆の里)のガチンコ指導で知られ、同じ二所ノ関一門内の出稽古さえ禁じるという異色の“鎖国政策”で知られていた。
ところが稀勢の里が横綱に昇進したことで一門の行事への参加が増え、他部屋との交流もオープンになりつつある。巡業中にその変化を象徴する一幕もあった。
「日立巡業で合流した稀勢の里関は、土俵下で白鵬から話しかけられ、ひとしきり談笑していたんです。今までなら考えられない光景でした」(後援会関係者)
かつての「孤高のガチンコ力士」の姿が影をひそめていることを、稀勢の里の異変と感じとる関係者は少なくない。
※週刊ポスト2017年9月8日号