2年前の9月、悪性リンパ腫という、血液のがんが判明した80代男性Aさん(関西在住)。喉と睾丸にも転移、ステージ4だった。抗がん剤治療の副作用で食事ができず、強い痛みも出てきたため、見かねた息子が免疫療法を調べて、無料説明会に参加した。

「“免疫細胞にがんを記憶させて攻撃する。お父さんと同じがんだった私の伯母が、見事に治りました”と、クリニックの院長が画像を見せながら話してくれました」(Aさんの息子)

 100万円超の費用を先払いして、昨年10月に免疫細胞療法が始まった。がんが転移した喉の部分に、免疫細胞を直接注射しながら、院長はこう言った。

「国からこの資格を得ているのは私だけ。唯一の治療を受けているんやで」

 むろん、国が一人の医師だけに治療資格を与えるなど、あり得ない。免疫細胞の注射は4回打たれたが、約3cmだった喉のがんは10cm以上に増大。声も出せなくなった。去年12月、Aさんは自宅のベッドで息を引き取った。免疫療法を選んだ理由を、息子は振り返る。

「iPSや再生医療の時代だから、免疫療法に期待してしまった。今になって冷静に振り返れば、治る治ると思い込まされていたのでしょう」

 免疫細胞療法の一部は“先進医療”に指定されている。これは例外的に混合診療を認めて臨床試験を実施、保険適用を目指す制度。裏を返すと、現時点で有効性が立証されていない“実験的医療”だ。

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