その「落語教育委員会」は今年から三遊亭兼好を新メンバーに迎えている。6月24日は座席数1100の東京・よみうりホールでの開催。まずは喬太郎がウルトラマン落語『抜けガヴァドン』で暴れ、歌武蔵が人情味あふれる『甲府ぃ』をじっくり聴かせた後、トリの兼好は『天災』を演じた。
この『天災』の突き抜けた楽しさは兼好ならでは。とにかくテンポがいい。八五郎と心学の先生のかみ合わない会話、長屋での八五郎の失敗、共に他の演者にはないギャグが絶妙の「間」で繰り出されてドカーンと爆笑を誘う。従来の台詞も、兼好特有のアップテンポなリズムと歯切れの良い語り口で表現されると、実に新鮮だ。八五郎の無邪気な笑顔のバカっぽさ、覚えたままに話そうとする澄まし顔の可笑しさといった「顔芸」も強力な武器になっている。
兼好の躍動感あふれる滑稽噺の魅力は、落語の本質を教えてくれる。思えば、喜多八もまた(演者としてのキャラは正反対ながら)そういう落語家だった。その意味でも、兼好が新レギュラーに相応しい力量の持ち主であることを存分に見せつけた『天災』だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『僕らの落語』など著書多数。
※週刊ポスト2017年9月22日号