仲代は世界中を見渡しても圧倒的な実績の持ち主といえる役者となった。それでもなお、決して現状に甘んじることなく、貪欲に新たな芝居、新たな役柄を追い求め続ける。そのメンタリティの核には、若手時代から変わることない想いがあった。
「私は表にはあまり出しませんでしたが、心の中には養成所時代の『一対四十九』の図式がずっとありました。私には学歴がありません。ですから、ここで負けたら食えなくなるぞ、と思い続けてきました。小さい時から父親がいなくて、ずっと貧乏で食えない時代があったから、そこへの恐怖心が今もあるんです。ですから、非常に卑しい話ですが、『食えなくなるぞ。あの時代に戻るのは、もう二度と嫌だ』というのが根底にあります」
いつまでも萎えることない闘争心──名優は、いつも若い。
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2017年9月22日号