松野は昭和21年生まれ、30歳の時に機械設計会社を裸一貫で立ち上げ、業界で信頼される地位を築いた。
7年前、健康診断で胸腺腫(注1)が発見され、群馬大学附属病院で手術。3年後、肺に転移が見つかり、抗がん剤治療と重粒子線治療(注2)で、がんの進行を抑え込んだ。だが、副作用のしびれがあまりに強く、身体が思うように動かない。不安が募る中、テレビで免疫細胞療法(注3)を知り、東京のクリニックに毎月通って、治療を受けたが、全く効果はなかった。
【注1:胸腺腫/成人になって退化した、胸腺の細胞から発生するがん。人口10万人あたり0.44~0.68人と、希少がんの一つ】
【注2:重粒子線治療/がん病巣に集中して、照射が可能な放射線治療の一種。限局したがん、周りに重要な臓器や放射線に弱い組織がある場合に適している。群馬大学附属病院では、先進医療として、年間314万円かかる。2016年から一部疾患に保険適用】
【注3:がん免疫細胞療法/臨床試験で有効性が立証されているものは一つも存在しない。高額な費用や、安全性、倫理性に強い疑念が出ている】
八方塞がりになった時、緩和ケア診療所「いっぽ」の存在を知った。
「ご自分がやりたいと思う事を、ぜひやって下さい。私たちが全員で支えます」
物静かな竹田果南医師の言葉が、無謀な旅を後押ししてくれた。