社員であれば給与を払わねばならないが、業務委託なら、自社の商品を買い取りさせ、売れた分だけおまえの儲けになるとささやいて、売れ残った分の買い戻しには応じない契約にすればいい。もともと、ろくに売れるはずもないガラクタのような商品を押しつけているのは百も承知だ。それをガラクタではないと思い込ませるため、意識が高いビジネスをしているかのような錯覚を植えつける。
「業務委託でないと、このビジネスは成立しない。だから、普通の感覚の子達はここでリタイアする。ただ、そうでない子たちも一定数いる。果物を売っているような子達です。正直、私も騙されたうちの一人ですが、同じように下を騙すことで私たちが食えるというシステムに気がつくと、何が何でも下を見つけてこないとなりません。マルチ商法みたいなもんです」
メディアで多く取り上げられた果物販売は、以前ほど目立たなくなった。だからといって、ブラック経営者によって生み出された無給で働く人々がいなくなったわけではない。流行の雑貨、最近ではハンドスピナーのまがい物などを、彼らは営業している。
ブラックバイトやそして外国人研修生の違法労働など、共通するのは「安価な労働力」に頼りすぎる企業経営者の怠慢、そしてこの国のシステムに起因する労働そのものへの歪んだ感覚だ。その歪みはついに、ブラックインターンシップや佐野氏が経験したような夢を餌に「無給営業マン」を生み出すまでになっている。
利益を追求するために労働力を買い叩く行為は、詐欺のようなものだ。こんな当たり前のことが、我が国の経営者達には理解できないのだろうか。経営者のなかには「自分が努力して事業を拡大し経営する会社なのだから、何より自分の利益が第一で、働く社員たちに還元する必要はない」と本気で考えている人がいるが、そんな会社は長くはもたないはずだ。働く人が労働を提供してくれるから維持できていることに気づくべきだ。
繰り返すが、他人を騙し、搾取することでしか成立し得ないのなら、それはビジネスではなく詐欺行為だ。労働力に正当な評価で報いるつもりがない経営者は、無給営業マンを作り出すことで利益を得ている自称”意識が高い”ビジネスマンと同じことをしていると気づいてほしい。