さらにはその後、国連児童基金(ユニセフ)や世界食糧計画(WFP)を通して北朝鮮に800万ドル(約9億円)相当の人道支援を実施することも決めた。支援の額は北朝鮮の長距離弾道ミサイルの発射費用(1回数百億円かかるとも言われる)と比べれば微々たるものだ。それでは餓えに苦しむ北朝鮮人民を救えないし、金正恩委員長の歓心を買えるとも思えない。
結局、文在寅という人の意識はいまも人権弁護士のまま、大統領としてはバランス感覚にかけると言わざるを得ない。これでは複雑極まりない国際関係の中で北朝鮮に対峙することはできない。
文大統領が米国の軍事攻撃をいくら牽制したところで、北朝鮮が「米国のレッドライン」を越えればトランプ大統領は躊躇なく決断するだろう。文大統領がまずすべきは、日米と相談もなく人道支援を提案することではなく、危機的状況下でも米国にモノが言えるような信頼関係を、トランプ大統領との間で構築することのはずだ。
●むとう・まさとし/1948年東京都生まれ。横浜国立大学卒業後、外務省入省。在大韓民国大使館に勤務し、参事官、公使を歴任。アジア局北東アジア課長、在クウェート特命全権大使などを務めた後、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』、『韓国の大誤算』、『韓国人に生まれなくてよかった』(いずれも悟空出版刊)。
※SAPIO2017年11・12月号