普段の何気ない食事の動作には、思いのほか重要な役割があるようだ。
「まず食べる物を目で確認し(認知)、香りをかぐ。硬さや温度や味を予想して、おいしそう~! と思うことで唾液が出て、食べる準備をします。箸などを使って食べ物を口に運ぶと、舌を絶妙に使って食べ物を移動させながら、噛み砕いたりすりつぶしたりし、唾液と混ぜ合わせます(咀嚼)。このときに味わいを楽しみ、食塊と呼ばれるのみ込みやすい形にまとめていくのです。
次にのみ込み(嚥下)。喉の筋肉を使って食塊を食道の方へ送り、食道の入口にある喉こう頭とう蓋がいという弁がうまく働くことで食塊が気管に入りこまないようにし、そしてのど越しや味の余韻を楽しみます。
このように“いただきます”と言ってから五感はフル稼働。歯はもちろん、舌や唇、喉の筋肉をしっかり使い、食べるために姿勢を維持して腕や手指も動かすので、かなりの運動量なのです」
口から食事ができるかどうかで、要介護度も違ってくるのだという。
「口から食べることで、認知機能を刺激し、体全体の機能を向上させるのです。当院で行った研究調査で、口から食べている人が、胃ろうや点滴による栄養摂取の人より栄養状態がよく、要介護度が低いこともわかっています。実際に寝たきりでおむつをしていた患者さんが、口から食事を摂り始めてから自分でトイレに行けるようになったこともあります。
ですから、できるかぎり口から、自分の手でいろいろな食べ物を食べてほしい。当たり前の“食べること”がとても大切な健康の源なのです」
※女性セブン2017年11月16日号