この事件は、高齢男性の恋心を利用したものであるため、遺族に複雑な心境をもたらした。
私は複数の遺族に取材をしたが、「いい年してあんな女に夢中になって恥ずかしい。もう放っておいてくれ」と取材拒否した遺族もいた。だが、(被害者の)本田正徳さんの親族は私にこう言って怒りを露わにした。
「あの女は、葬祭場でいきなり遺産相続の話を始めたんじゃ。“公正証書がありますから”言うてな。兄弟みんな納得いかんかったけど、争いになったら面倒やろう。みんな家族もおることやし、大騒ぎすまいということで、諦めとったんじゃ。死刑? それよりも時間をかけて深く反省してほしい」
千佐子は死刑判決後すぐに控訴している。
(文中一部敬称略)
●おの・いっこう/1966年福岡県北九州市生まれ。「戦場から風俗まで」をテーマに北九州監禁殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。著作に『震災風俗嬢』(太田出版)、『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)などがある。
※週刊ポスト2017年11月24日号