大鍋いっぱいに作られたおでんは味が染みていて焼酎ハイボールによくあう

 常連客の間で、「昭和の匂いがするこの店を代表する貴重なインテリアだ、いいね」と評判なのが、業務用電気冷蔵庫だ。
 
 懐かしい時代物のオーラを発しながら、皆が角打ちを楽しむカウンターの奥に静かに控えている。

「昭和42年からここにありますが、平成17年5月3日に止まってしまった。よく働いてくれましたよ。昭和の頃は、冠婚葬祭の集まりを各家庭でやっていて、それ用に配達するビールや仕出し料理がいつも入っていたんです。そんな習慣が減り、もう俺の時代じゃないと考えて、止まったのかなって」(橋本さん)。

 カウンター、これも店の改装時に造られたものだが、その天板上面は、なぜかいつもピカピカだ。
 
 ここに橋本さんが青の水性サインペンでサッと数字を書いては、キュッキュッと消している。

「これが伝票、メモ代わりなんです。注文された酒やつまみを出したときに値段を書き、支払いが終わったらすぐに消す。冷蔵庫は止まっちゃいましたが、このやり方はずっと続いてますね」(橋本さん)。

 そのカウンターに焼酎ハイボールの缶をトンと置いた青年が語り始めた。

「僕は、四国で育って大学が大阪。2年前に京都の病院に就職したんですが、見知らぬ土地でとても心細かった。そんなとき、上司がここに連れて来てくれました。居合わせたお客さんがみんな温かくてやさしくて…。

 そこで飲んだのが、この焼酎ハイボールなんです。この辛口は若者にも好まれる味ですよ。みんな好きやと思います。
 
 馴染みのない土地で働き始めたボクに、ここが居場所だと教えてくれた店で、こんなおいしい酒に出会えるなんてね」(病院技師、20代)

「私も2年前です。食べ歩きが趣味でしてね。この近くのうまいラーメン屋に朝ラーを食べに来たら、開店まで30分もある。こまったなあと見回したときここが開いていて。恐る恐る入ったら、酒はうまいしお客さんは面白いしで、今は週一で通ってます。私の趣味の中に角打ちがひとつ加わりました」(自称・料理人の端くれ、40代)
 
 朝10時から飲めるが、夕方6時前後には閉まってしまう。「朝早くから開けてるとね、疲れちゃってその時間までで精いっぱいなのよ」と、淑子ママ。それならば、夕方からライトアップが始まる京都の紅葉の名所に、ほろ酔いで流れるのも楽しいかもしれない。

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン