◆パンプスからスニーカーに変わって気づいたこと

 そうこうすること3か月。失業保険が出るのもとうとうあと1回となった。が、そこでやっとM子に新たな道が開けた。

「相談員に、これまでの就活の経緯と、どんな仕事がしたいかを話したら、『マンションの管理人が向いているんじゃないですか』と言われたの。管理人って掃除をする人でしょ。気が進まなかったけど、ぜいたくを言っていられる立場じゃないし」

 半ばヤケクソで相談員に従ったら、トントン拍子。その日のうちに採用された。

「1日4時間で週に5日。時給1100円は悪くないし、7階建ての分譲マンション全フロアの掃き掃除は、汗びっしょりになるけど、やった仕事が目に見えるから達成感がある。それにね──」

 慣れるまでは時間内に管理人の役割をこなすだけで精一杯だったけど、1か月を過ぎたころ、酒量が減ったことに気づいたそうな。

「営業をしているときは、あんなことを言って客に嫌われなかったかとか、上司の機嫌を気にしたりとか。いつも何か頭の上に乗っかっていて、それを忘れたくて深酒していたのね。それが最近はチューハイの力を借りなくてもコロッと寝ちゃう。飲みたいとも思わないの。これは、朝5時起きして体を動かしているからというだけじゃない。『ああ、終わった、終わった』と帰る道の清々しさといったら、これはやった人にしかわからないね」

 あれから3か月。M子は定年前よりずっと生き生きしていて、5才くらい若返ったよう。夫(61才)と息子(34才)も働いているから、月に10万円の収入でも充分やっていける。

「仕事の行き帰り、電車の窓に映る自分を見て、ホワイトカラーからブルーカラーになったんだと思うけど、二度と昔の仕事に戻りたいとは思わないわ」

 M子の就活は、そこに落ち着くまで、通らなければならない道順だったのかも。

※女性セブン2017年12月14日号

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