「国民医療費はこの10年間でも約10兆円増加し、ついには40兆円を超えるまでになり、その財政負担は大きな問題です。しかし、医療費の高騰は医師の診療報酬や医療の高度化、高齢者医療などと深く結びついた問題であり、喫煙者率を下げれば医療費を抑えられるという短絡的な問題ではありません」(前出・上杉氏)
また、喫煙率が下がれば平均寿命が延びるとの説もあるが、経済アナリストの森永卓郎氏は増税との相関でこんな見解を述べる。
「もしその説が正しいとすると、たばこを増税しても税収は増えませんが、平均寿命の伸長で年金給付は増大しますから、財政全体として見るとたばこ増税で財政赤字が拡大することになります」
財政的にはメリットが薄れつつあるたばこ増税も「喫煙者の健康をおもってのこと」という主張を振りかざせば、いくらでも引き上げることができる──政府はこう考えているのかもしれない。
「今後も次々と増税が繰り返されると、ついにはたばこが高所得者層だけの嗜好品になりかねません。それは嗜好品摂取の自由度を経済的理由で制限し、社会全体が寛容さを失っていくことになります。
また、喫煙者のためであるという主張は、生活の中からすべての危険因子を排除しなければならないという考えから派生するものといえます。しかし、その考えは、人間にとって避けることのできない死を前にして破綻する考えであり、人生の楽しみを見つけて自分らしく生きよう、そして自分らしく死にたいと願う人々の生活を阻害するものです」(上杉氏)
森永氏は、「結局、喫煙者を仮想敵に見立てて叩くことによって、たばこ以外の増税不満を紛らわそうとする意図があるのでしょう。ただでさえ肩身の狭い喫煙者はおとなしいので、ターゲットとしてはうってつけなのです」と強い口調で憤る。
従来の紙巻きたばこより安全性が高いといわれる加熱式たばこの増税方針と併せ、たばこ増税は税収面と健康面の双方から慎重に議論を重ねる必要があるだろう。「取りやすいから取る」は、いつまでも通用しない。