──具体的にどういった処分を下すのか。
今井:もちろん、メディアにすっぱ抜かれたり、悪質だったりするものは記者発表されるが、そうでない場合は結構エグイやりかたをする。実際にあった話だが、一般女性と不倫関係になっていた警察官は、東京東部の足立区に自宅があるにもかかわらず、季節外れの人事異動で足立区とは正反対の西部・あきる野市にある五日市警察署に異動となった。通勤時間だけで片道3時間かかる。警視庁警察官の日勤の勤務時間は午前8時半だが、実際は1時間以上前の午前7時から勤務するのが習わしになっている。事実上、通うのが無理な所轄なのだ。いったんスキャンダルを犯した警察官に“再起復活戦”はない。後日、この警察官は退職届を出したが、慰留されることもなく受理され、警察官人生に幕を下ろした。このような人事異動を内部用語で”罰俸転勤“と呼ばれている。
──それでは大島や三宅島といった島嶼部にある署に異動させられたら終わりなのか。
今井:それは全くの逆だ。実は栄転なのだ。エリートコースを歩んだ人材が、前職のハードな部門での業務を遂行した“ご褒美”だ。つまり、ゆっくりと英気を養ってほしいというメッセージが込められている。島嶼部は事件らしい事件がほとんどない。仮に殺人事件などの凶悪犯罪が起きた場合は、警視庁捜査一課の1個班が臨場して捜査にあたる。島特有の濃密な人間関係に島の署員も組み込まれているから、フラットな目線での捜査がしづらいというのがその理由だ。警察官の出世は、昇任試験合格が必須だが、勉強する時間は余るほどある。島嶼部勤務中に試験勉強に集中して、出世コースを上がっていくというわけだ。
──所轄の警察署長になっても監察係からマークされるというのは本当か。
今井:そもそも署長候補となってからは“最低1年以上の行動確認”が人事一課監察係によって秘匿に行われる。尾行や張り込みなどで不祥事につながりやすい人物だと、その時点で失脚して、署長候補から外されるケースも多い。署長経験者の間では、この徹底した監視期間を“魔の1年”と呼んでいるくらいだ。また、晴れて署長になれたとしても、交番の外で立番(りつばん)する警察官は署長車が移動するたびに「マルX(エックス)、〇〇交差点を駅方面に直進中」などと、無線でリモコン室(警察署の無線指令室)に連絡する。マルXとは「警察署長」を表す警察内部の符牒(ふちょう)だ。
こうして毎日の動向が人事一課監察係に報告される。警察署長は地域のトップ、顔である。当然、様々な利害関係者や敵対勢力が篭絡しようと手を差し伸べてくる。実際に誘惑に負けてしまう署長もいるだけに、危機をブロックするために署長であれ、マークする。つまり、組織防衛が本来の目的なのだ。