逆に、連続性のある穏やかな音を馬は好むので、音楽を小さく流すのもいい。クラシックがいいと聞きますが、ウチでは歌謡曲を流すこともあります。流れるような音に馬は安心し、ゆっくりと気持ちと体を休ませることができます。ちなみに3歳馬ショパンの馬房には、やはりショパンのピアノ曲でしょうか(笑い)。

 リラックスできれば睡眠の質も上がり、飼い葉食いもよくなる。そうやって馬は疲労を取り去ります。疲れた馬に寄り添うのは厩務員。馬にも人間の好き嫌いがあり、相性のいい厩務員が担当になります。

 残念ながら、調教師の出番は少ないようです。馬が、「ジョッキーがあんなにムチをふるったから疲れたんだよ」と思ったとすると、調教師はジョッキーに指示を出す親分です。その親分が寄ってくれば、気持ちと体に余計な力が入ってしまうかもしれません。どんな時でも自分の味方になるのは、優しく脚をさすってくれてご飯をくれる厩務員。馬はそう感じていると思います。

 ちなみに、人間は好物を食べて元気を出そうとする時がありますね。馬にはその発想がありません。日頃から最高の栄養食を摂っていますから。そのご飯を食べさせてくれる人間とのふれあいが大事なのです。

 人間は自分に大きな期待がかけられるのがストレスになることがありますが、馬にはそういったことはあまりないようです。ただ、馬は人間の思いを汲む動物。だから調教師としてはスタッフに重圧をかけすぎないようにしていますし、ストレスをためないようにということも心がけているつもりです。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』(小学館新書)が発売中。

※週刊ポスト2017年12月22日号

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