人物に焦点を当てる人気番組『情熱大陸』(MBS制作・TBS系列放送)はどのように作られているのか? 出演者については、芸能事務所や本人、知人、出演者からの紹介など年間1000本ほどの候補からスタッフが吟味する。社内で企画が通らなければ採用されることはない。
その後、じっくり半年間以上打ち合わせを重ねたり、最長5年も密着取材をしたりと、30分番組にかける熱意すごい。
実際に『情熱大陸』の密着を受けた芥川賞作家の羽田圭介さんに撮影の裏側を出演者目線で語ってもらった。
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ぼくの小説『成功者K』(河出書房新社)に登場する“密着番組”のモデルは言うまでもなく『情熱大陸』です。
作中人物が番組に激怒しているので、「『情熱大陸』に怒ってるんですよね」とよく聞かれますが、怒っていませんよ(笑い)。密着は2015年10月から2か月弱。売れない頃は番組に強い憧れがありました。7月半ばに芥川賞をとり、「『情熱大陸』来るかな」と思ったら意外と来なくて他番組の密着などに散々出た後だったので、正直「今さら? ちょっとめんどくさいな」ぐらいな感じでしたね(笑い)。
現場を移動する際のタクシーで密着するパターンが多く、「アッシーくん、ラッキー」なんて喜んでいましたが、タクシーの密着はいかにも『情熱大陸』っぽい。「密着されて大物になった気がする」と感じる瞬間があったのも、事実です(笑い)。
他の番組の密着を先に受けていたからこそ相対化して感じるのは、どの番組も“こういう画を撮りたい”という明確なプランがあって、ピンポイントで必要な画を撮影していく。そんな効率最優先の作り方なのに対して、『情熱大陸』は最初から台本を作っていないところが大きく違う。
つまりは二十数分のオンエアに対して膨大な素材を撮らなくてはならなくて、撮る方も撮られる方もお互い疲弊するんです。
楽屋で昼寝中に1分で出て行くという約束を5分以上撮影された時には声を荒らげました。「羽田さんの素顔が見えない」と、いつのまにか電話番号を教えてもいないぼくの友達に連絡を取っていたのは唖然としましたが、それも小説を書くうえでいいネタになりました。
ただ、請求書を作成しているところを撮られていて、50万円という大きな金額をクローズアップされて放送されたのは腑に落ちない。
気を抜いたぼくも悪いですが、「あれを使うのかよ!」って。
現場のディレクターさんはもっと地味で骨太なものを作りたかったみたいなんですが、キャッチーな画をつぎはぎする番組作りを好む強い意見もあったみたいで。そうした制限の中で作られたということを考慮し、満足度は70点です(笑い)。
※女性セブン2018年1月1日号