◆「普通のことをやっただけ」
けれども、福島第一原発の甚大な事故、後継指名した佐々木則夫との抜き差しならぬ確執が東芝の原子力事業を蝕んでいく。西田は原子力事業の劣化の原因はすべて、経営にあったと断言した。
「事故が起きなくとも同じような問題が起きていたんじゃないでしょうか。先延ばしされただけじゃないかな。問題は経営だから」
経営を見失った東芝への見方は冷ややかだった。西田は最後の最後、経営者としての最大にして最高レベルの経営判断である後継選びで手痛い失敗をした。集めた情報に自らの欲が入る時、情報はクズでしかなくなった。
西田の妻は、「うちは母子家庭でした」というほど、西田はビジネスに自らの人生を捧げ、そこで自己実現を図ろうとした。実際に頂点まで上り詰めた。その西田が最後のインタビューで語った、かつて彼自身が身を捧げた東芝に対する厳しい見方に対し、OBなどの中から批判の声も出ていた。たしかに、かつての光り輝いていた西田からは想像もつかぬ、批判に終始する姿には、その場で聞いていた筆者でさえも痛々しさを覚えたほどだった。西田はかつて、環境が人を作ると語っていたが、西田もまた環境によって変わってしまったのかとも思った。
しかし、それは違ったのだろう。自己正当化に終始した西田。それは東芝にすべてを捧げて来た矜持があればこその譲れぬ一線だったはずだ。