これほどの大型事案が成立したのは、習近平とトランプの間に何らかの「グランド・ディール」(大取引)があったからと考えられる。そこで浮上するのが、南シナ海だ。

 中国にとって南シナ海は軍事戦略上、極めて重要だ。核ミサイルを搭載した原子力潜水艦が潜伏できる水深の深い海は、中国の近海でそこしかないからだ。金融市場を開放する代わりに中国は、南シナ海における軍事的プレゼンスを米国に認めさせたのではないか。

 事実、最近は南シナ海における米軍の「航行の自由作戦」の頻度が下がり、監視活動が希薄化している。もうこれ自体が、大変気がかりな兆候であるが、もしそんな米中の「ディール」が現実に移されると、気がかりではすまない。

■なかにし・てるまさ/1947年大阪生まれ。京都大学卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学大学院教授を経て、現職。近著に『アメリカ帝国衰亡論・序説』(幻冬舎)、『日本の「世界史的立場」を取り戻す』(祥伝社、共著)がある。

●取材・構成/池田道大(フリーライター)

※SAPIO2018年1・2月号

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