3席目『二番煎じ』の基本的な設定は師匠である小三治とほぼ同じだが、冒頭で黒川の旦那が遅れてやって来るというのは初めて聴いた。酒盛りの場面では、古今亭志ん朝に代表される「よくしゃべる演出」とは対照的に、表情と仕草を主体に表現する演出を多用。そんな中で、黒川の旦那が「家内に先立たれて……」としんみり飲むというのが新鮮だった。
猪鍋の用意をしてきた男に「夜回りの神様だね」と言った後で「箸が一膳? それじゃ神様じゃないね、達人どまりだ」と言うのは喜多八の「夜回りの名人だね……箸が一膳? そりゃ抜かりがあったね。名人じゃなくて上手どまりだ」を踏襲した素敵な台詞。
年末だから、最終回だからと人情噺の大ネタで締めたりせず、自然体でいつもどおり高座を務めたところが三三らしい。8年9ヵ月続いた「J亭落語会」は幕を閉じたが、この3月からは奇数月開催のJ亭スピンオフ企画が大手町・日経ホールで始まる。楽しみだ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年2月9日号