ライフ

日本近代史家・渡辺京二氏が「奇人であり聖者」と評す人物は

エジプトのアレキサンドリア・コロニーで取材中の高山文彦氏

【書評】『宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録』高山文彦・著/小学館/1900円+税

 故・笹川良一氏の三男、笹川陽平・日本財団会長のハンセン病制圧の旅に7年にわたって同行取材した作家・高山文彦氏の『宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録』。熊本日日新聞(2018年1月28日付)掲載の、渡辺京二氏(日本近代史家)による書評を全文掲載する。

 * * *
◆ハンセン病制圧への情熱

 著者は2010年から、日本財団理事長笹川陽平に同行して、世界中のハンセン病患者の実情を視て廻るようになった。足跡はインド、アフリカ、中東、ブラジルなど20カ国に及ぶ。

 著者を動かしたのは、笹川陽平という男は一体何なのだろうという驚嘆の思いである。陽平がハンセン病制圧に関わり始めたのは1974年。2014年までにWHOを通じて202億円を供与、特記すべきこととして、1981年に開発された特効薬MDTを無料配布した。

 しかも彼は世界中を飛び廻って、各国政府を説得し、ブラジル一国を除いて、WHO基準の「制圧」を実現せしめたのである。「制圧」とは「国民一万人あたりの患者数が一人を下まわった状態」をいう。

 これは偉大な事業ではあるが、著者が驚いたのは陽平の患者に対する態度であった。親愛の情をみなぎらせ、抱きしめ撫でさする。そして、ハンセン病は神罰でも業病でもなくて治る病気であり、みなさんの人権はすでに国連によって決議されており、堂々と生きる権利を主張してよいのだと語りかける。この愛情はどこから湧き出るのだろう。

 陽平は著者に、父良一がマスコミから、私利をむさぼる右翼の大立者のように誣(し)いられたことへの怒りが、差別される者への共感をはぐくんだと語る。それにしても、ハンセン病制圧への情熱とその行動力は、常人の規準を以ては計り難い。一種の奇人であり聖者というべきだろう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン